書評『いつか深い穴に落ちるまで』/山野辺太郎
まるで任天堂のような小説だ。荒唐無稽だからこそのワクワク感がある。けっして現実的な設定ではないのに、リアリティも手応えもふんだんにある。だとすればリアリティの正体とはいったいなんなのか。読み手にそんな根源的な疑問を抱かせるというのは、それが良質である証拠だ。なにも小説に限らない。読み手の価値観を揺さぶってこその芸術でありエンターテインメントだろう。既存のリアリティの上に安住して、ものしり顔で正誤の判断を下すなどお笑いぐさだ。そもそも科学的な正しさ、つまり昨今流行りのエビデンスとやらと面白さとはなんの関係もないのだから。先日の『アメトーーク!』の読書芸人回で紹介されていたのをきっかけに、本書に興…